綾川くんが君臨する

廊下の奥のほうから突然低い声が飛んできた。


びくっとして振り向くと、そこには学年主任の朝井先生が険しい顔で立っていて。

朝井先生は風紀の乱れに厳しくて、とにかくコワすぎなことで有名な先生で。


キスのせいでうまく働かないこの頭でさえ、この状況が超・大ピンチであることは……よゆうで理解できた。


「お前ら、2年4組の綾川と黒鐘だな。男女ふたりでコソコソ密会とは……。まさか見過ごしてもらえるなんて思わないだろうな?」


たった今まで火照っていたのが嘘みたいに全身から血の気が引いていく。

やばいやばいやばい、どうするのこれ。

綾川くんが意味不明にキスなんてしてくるせいでとんでもないことになっちゃった……!


なのに綾川くんときたら、焦りの「あ」の字もない顔で浅井先生を見据えている。


「綾川、お前な、黒鐘みたいな大人しくて逆らえない女子を選んで遊ぶとか、男として一番ろくでもないことなんだぞ。わかっているのか」


浅井先生がゆっくりと近づいてくる。


どうやらわたしは、綾川くんに遊ばれている前提らしい。

いや……まあ、その通りなんだけど。


カーストトップの綾川くんと、教室の隅でひたすら地味に生きているわたし。

いくらキス現場を目撃されようが、恋人としては見てもらえないんだな……。
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