綾川くんが君臨する
「わ、わわわかった……っ、すまない! 先生が悪かったっ、お前たちのことは言わないから、絶対に……ゆ、許してくれ、な……言わないでくれよ、頼むな……!?」
情けないほど震える声でそう言いながら、浅井先生が早足で後ずさりしていく。
その姿はまたたく間に角に消えていって、わたしは先生のいなくなった廊下をしばらくぽかんと見つめた。
……助かった……んだよね? 一応。
まさか浅井先生が不倫してたなんて……。
それよりなにより。
「綾川くん、なんで不倫のこと知ってたの……?」
わたしの隣に立つ人物を、おそるおそる見上げる。
「暇なとき観察してたらふつーに気づいた。役に立ってよかったね」
よかったねって。なんでそんな他人事みたいなの。
そしてその観察眼はなんなの。怖いんだけど。
「写真も、いっぱい撮ってるって」
「ああ、あれは嘘。さすがに撮るまでの趣味はないわキモいし」
「あ〜……そう、だよね、あはは」
「それに、遊び相手にするなら俺はもっと扱いやすい女を選ぶけどね」
「……え」
わたしよりうんと高い位置から、じっと見下ろしてくる。
その瞳はたしかにわたしを捉えているはずなのに、暗くて、冷たくて、底が見えない。