綾川くんが君臨する
宝物にでも触れるみたいなやさしい手つき。
わたしじゃなきゃだめ、なんて、トクベツっぽいセリフ。
でも、そういう甘さを装った言動に、今回ばかりはさすがに絆されないからね。
「さわんないで」
「……黒鐘、怒ってる?」
「怒るよ。だって、“人の泣いてる顔を見たい”って欲求を満たすためだけににユナちゃんに酷いこと言ったわけでしょ」
「全然違うけど」
「なにが違うの」
「試したかったんだよね、他の女が泣いてるのを見ても、俺は同じようになるのか、そうじゃないのか」
「同じようにって……なに?」
直後、しまったと思う。
聞き返すって行為は、相手に取り繕う余地を与えかねないのに。
「だから……、もっと俺で、ぐちゃぐちゃにしたい……っていう」
──って、いや、そうだった。
綾川星というニンゲンに、自分を良く見せようという感覚はおそらく存在しないんだった。
それにしても、なにもここまでバカ正直に答えなくても。
ぐちゃぐちゃにしたいって、ふつ〜に相当ヤバい。やっぱカギャク趣味なんじゃん。
そしてなんにせよ、綾川くんが自分の都合でユナちゃんを故意に傷つけたのは変わらない。