急募!ベリーの若様が花嫁を御所望です!

「実は、この歳になって…とても恥ずかしい話なのですが…。私は、かねてから恋愛感情というものに疎く、これまでの人生で、誰かに恋をしたという経験が、ただの一度もありませんでした。
勿論、人としての好き嫌いや、家族の間の情などはちゃんと心に存在します。ですが、学生の頃から、自分が他人に『恋』をして『愛』するということに余り興味がなく、それがどういう感情なのかが、こんな職に就きながらも、これまで全くと言っていいほどわかっていなかったんです」

「ほう…どこかで聞いた話じゃな…」

金持が、チラリと大也の方を見やる。


「お祖父様も既にご存知の事でしょうが、先だっての事件の相手は、以前私の婚約者だった男なのです。
結婚式当日にとある事情があり、その婚約関係は二年前に破綻してしまったのですが…。当時私は、結婚しようとまでしたその相手に対して、残念ながら全く未練がない事、自分が彼を少しも愛していなかった事に気づいてしまい、結婚がダメになった事に寧ろホッとしてしまっている自分に、強い衝撃を受けました…」

亜里砂は目を伏せて言う。

「結婚までしようとしたくせに…その相手のことを少しも愛していなかったなんて…自分はなんて情け知らずの酷い女だろうと…」

大也が亜里砂の背中を優しく摩った。

「でも、狡い私はそんな罪悪感からも目を背け続けて来ました。その件で嫌な思いをたくさんしたこともありましたが、何より、自分は他人を愛せない人間なのだからと…相手のことをよく知ろうともせず、恋愛の『れ』の字も真剣にしてこなかったくせに、恋愛に絶望したフリをして。
単に面倒臭くて向き合わずに逃げていただけだったのに、相手だけのせいにし、傷ついたような顔をして『もう恋愛は懲り懲りだ』と決めつけて…。
だから結婚なんてもっての外。二度と、そして一生するもんかと思って生きていました」

「でも、ここに大也と二人で来たということは、今はそうは思っておらんという事じゃろう?」

「はい」

亜里砂は顔を上げ、金持にニッコリと笑った。

「勿論、此方に伺ったあの夜も『私は結婚なんて絶対にしない』と思っていたんです。
正直…私、あの夜出会った若様のことを、心底ダメな男だと思いました。『結婚してくれ』と言いながらのセフレならいっぱいいる自慢。その後もここで、初対面の私に、モラハラやパワハラ感満載の訳の分からない求婚プレゼン…」

「自慢はしてないって言っただろ…」

小さく言い訳する大也を、亜里砂がジトリと睨む。

< 205 / 217 >

この作品をシェア

pagetop