私を甘やかして、そして、愛して!
δ. 氷点下の恋
山岳警備隊の森下は無線で応援を呼んだ。

待機ヒュッテからこちらの山間部へは少なくとも4時間はかかるだろう。

仲間3名と山頂でおち合うか湖にするか考えた。

昼前後に何がしかの状況を把握できたらいい方かもしれない。

山道から外れていたら発見できる確率は低いだろうと踏んだ。

もう一度地図を確認した。

「リーダー、こちら須藤。」

無線が鳴った。

「こちら森下、どうぞ。」

「準備完了しました。」

「夜明けまで待機。どうぞ。」

「了解しました。」

後輩の須藤と秋山の他に

ガス山初体験の新人酒井を同行する。

ガス山とは濃霧で視界ゼロになるトレッカー泣かせの山のことだ。

霧さえなければ

小ぶりだが透明度抜群の湖と

谷底のせせらぎ道を楽しめるが

針葉樹がびっしりと覆われていることで

降りてきたガスがたまりやすいため

誰も寄り付かない山になった。

不明の二人は別行動なのだろうか。

それとも5年前のことに何かつながりのある連中か。

あるいはまたしても捜索が打ち切られる遭難事故になるのか。

森下はあらゆる要素を模索した。

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