翠玉の監察医 弱者と強者
「そうなんですか……」

蘭は警察官が未だに出入りしている豪邸を見つめる。家族の突然の死にみんなこの豪邸の中に集まっているのだろう。

「神楽さん、理央くんが亡くなった現場を見に行きましょう」

ぼんやりしていた蘭に圭介が声をかける。蘭は胸に今まで感じることのなかった思いを抱えながら、ドアに手をかけた。

「失礼します」

蘭がそう言い、豪邸の中へと入ると奥から「また警察の方が来たわよ!早くお茶をお出ししなさい!このノロマ!」と罵声が聞こえてくる。そして、玄関に痩せ細りどこか疲れ切った様子の三十代前半ほどの女性が現れる。その女性は蘭を見た刹那、「あなたは!」と驚いた顔を見せた。

「神楽さん、お知り合いなんですか?」

圭介の問いに蘭は答えることができない。この豪邸に住む人たちとの関係を一つ話せば、全てを打ち明けなければならなくなってしまう。それが何よりも苦しいのだ。

「お初にお目にかかります。世界法医学研究所の監察医、神楽蘭です。必ず死因を究明致します」
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