麗しの彼は、妻に恋をする
「もお。一歩を踏み出すことを忘れちゃったんだね……。柚希は理子が亡くなってから、ずっとそうだ。生きていくんだよ? 生きていくってことはね、前を見るってことなんだよ?」

――前を見る?

「柚希は和葵さんとどんな夫婦になりたいの? あきらめる前に試してごらんって。そうすれば何かが見えるから」

――お祖母ちゃん。

お祖父ちゃんが亡くなり、母が亡くなったあの日の傷は、心に深く残ったままだ。愛する人に置いて行かれるのは、怖くて仕方がない。

前を見るなんて、考えたこともなかった……。

「……お祖母ちゃん、長生きして、ちゃんと見届けてくれる?」

「大丈夫だよ、柚希。私は百歳までがんばるよ。和葵さんだって。こういっちゃなんだけど、あの人はそう簡単に死なないね。人類滅亡の日も元気に笑って乗り越えるタイプだね」

「あはは。お祖母ちゃんたら」

――でもそうかも。

あの人は長生きしそう。

そうだね、お祖母ちゃん。
どうせ、どんなに我慢をしてもこの想いは止められない

私は和葵さんが好き。
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