麗しの彼は、妻に恋をする
――ほぉ、なるほど。
でもそれって、まったく眼中にないということなんじゃあ?
「既婚者であることは社会的信用に繋がるし、ついでに言えば肉体的満足も得られるし」
「ふぇ?」
またしても素っ頓狂な声が出た。
肉体的満足とは?
それはずばり、セ、セッ○スというやつですか?
そういうことには奥手すぎて、脳内変換でさえ、つい隠語になってしてしまう。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。あの、一応言っておきますが、私、なんの経験もないので、ご、ご満足頂ける自信は、全くありませんですが」
「だろうね。キスすらこの前がはじめてだったでしょ? でも、いいんだよ、それで。大丈夫。教えてあげるから」
にんまりと目を細める彼が無邪気すぎて、なんだか怖くなる。
――でも。
彼のキスは嫌じゃなかった。
というよりはむしろ、嫌の逆。
彼を目の前にすると三度目を期待してしまうほどに、甘い記憶が唇に刻まれている。ような気がする。