過保護な君の言うとおり


「あ、玲ちゃんも目が覚めたの。ここは寒いよ? ほら、僕のこれ羽織って」



少し驚いたように目を丸くさせた佐久間はそう言って、ダボダボのパーカーを私の肩にかけた。


「それじゃあ、佐久間が寒くなる」


「僕はいいの。体は丈夫だから」



佐久間は少し笑ってから、また街へ視線を移した。


「ここはいいね。街が起きる前の静かな時間が見れる。

もうすぐ日が昇って、車が走り出し、横断歩道には信号待ちで人が集まる。


今日が始まる前の静かな時間って不思議だと思わない?」



「静かな時間……?」


私が聞くと佐久間は首を縦に振った。


「そう。何かが始まる前には何かが終わって毎日、終末を迎えてるんだよ。



そういうのを何度も何度も繰り返してるんだよね。

まるでさ、今この瞬間に世界は時を止めて、次の終末に向かって動き出す準備をしているみたい」



「お前の目にはそう見えてるのか」


「僕はこの眺めが好きだよ」


「私もだ。……良いことはそのままに、この街の景色は、飽和した孤独や悲しみを優しく溶かしてくれる」




 時々、私自身が悲しみの権化となって街に溶けてしまいそうになる。


それは怖いというよりも誘惑に近い。


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