北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 そんなこと言ったって、つるにこが甘えてきたら2階になんてあがってこれないでしょ。
 凛乃はどすどす音を立てて階段を駆け上がった。
 明日、トランクルームの荷物をすべて入れられるように、片づけと同時に家具のレイアウトも考えなくてはならない。
 ベッドは北面の真ん中に、納戸側の壁にブルーグレーのチェストとハンガーラック、ベランダ側の壁にはトランクルームから来るドレッサー。大物のおおよその配置を頭に思い描く。
 足りないものはまだまだあるけど、ここで過ごす時間が落ち着いた満たされたものになるのはわかった。
 でもわたし、欲張りになっている。
 ここで眠った初めての夜は、おやすみの“ニセモノの”キスもしてもらったのに、妙にさみしかった。
 こんなに広い部屋にひとりぼっちでいるくらいなら、なにもかも手の届く範囲にある納戸に戻りたいとさえ思った。そこなら少なくとも、空虚を埋めたくてもがくような気持ちにはならない。
 ハンガーラックを引きずる手を止めた凛乃は、ドアがばたんと開いて飛び上がるほど驚いた。
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