北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 エレベーターホールのほうから、凛乃が駆け寄ってきた。
 といっても着物に草履だから、そのスピードは幼児並みだ。
 累はブリーフケースを手に、足早に凛乃を迎えに行った。
「お待たせ」
 トイレへの小路に入る手前で、凛乃と立ち止まる。
 髪に大きな造花を挿し、いつもと雰囲気のちがう濃いめのメイクの凛乃は、長い袖をくるりと腕にかけて、左右に身体を揺らした。
「どう?」
 累はいつもおなじことしか言えないと自虐しつつ、
「かわいい」
「ありがと。トウが立ってますけども、なんとか」
「似合ってるから、関係ない」
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