北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 母親の着物を着る凛乃の姿を一目、見れればいいと思った。
 ホテルの控室で着て、終われば脱いで帰るというから、披露宴がある時間帯になんとか仕事の打ち合わせを入れた。
 着付けに向かう凛乃と別れてから、約30分。
 移動時間もあるし、あまり着付けに時間がかかるようだと、遅刻の連絡を入れなきゃならないかもしれない。
 『GAMEOVER』
 無気力に続けていたパズルゲーム上に現れたその文字をかき消すように、ようやく凛乃からの知らせが入った。
「いま下に降りてるよ」
 累はかろうじて残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、すばやく立ち上がった。
 ラウンジの前でジャケットを羽織り、出版社までの経路を再確認する。
「累さん」
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