北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 人もまばらな鳥居のまえに着くと、バックパッカーが累と凛乃にスマートフォンを向けた。手振りで、くっつけと促される。
 フィアンセなんだろ?
 寝る前にちょっと話したことを覚えていて、バックパッカーはもっともっとと要求してくる。
 凛乃をうかがうと、そっと腕をからめてきた。
 それに応えるつもりで、累はこめかみがかすかに触れる程度に寄り添った。
「いま、フィアンセって言ってた?」
 累にだけ聞こえるささやきが、はずんでいる。
「うん」
 うなずくと、つながる腕ごと、凛乃はぴょんぴょんと上下に揺れた。
 鳥居をくぐり、参道を通り、手水舎で手を清め、賽銭を投げて柏手を打つ。
 凛乃がゆうべ調べたという初詣の作法を逐一伝えながら、3人で首を垂れる。
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