北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「なにをお願いした?」
 おみくじを結んでいるバックパッカーのうしろで、凛乃に尋ねられた。
「お願いっていうか、よろしくお願いします、かな。いろんな意味をひっくるめて」
 目を細める凛乃を見る。
「凛乃は?」
「心おきなく家に帰れそうですありがとう、って」
 凛乃が言う“家”は、実家のことじゃない。
 累と暮らす、つるにこがいる、あの家だ。
 それが当然のように思えて、そう思うことに少し驚いて、累は自分たちの新しい関係を初めて発見したように瞳を瞬かせた。
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