北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「おれもがんばるから」
 真夏の暑さをまったく感じさせない涼しい小部屋は、すがすがしいほど静寂に満ちている。
「おーい、瀬戸くん間に合ったぞー。顔だけ見せて」
 鎮まりかけていた緊張感を蹴飛ばして、トイレに行っていた言造が戻ってきた。背後には佐佑の顔がある。
「うぁああ、殿様かよー。さわやかな馬子にも衣裳だなぁああ」
 抱きつかんばかりの勢いで寄ってくる佐佑を、片手で押しとどめる。
「暑苦しい」
「なんてこと言うんだルイルイ、褒めてくれてるのに」
「いいんですよお父さん、累が照れ屋なのオレ知ってます」
「そうかい、昔からずうっと兄弟みたいに育ったんだもんねえ」
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