北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 首をほぐすようにぐるりと巡らせると、ソファの脇のハンガーにかかっているお色直し用の白いタキシードが、圧倒的な存在感で目に入る。隣の部屋では、和装での写真撮影を終えた凛乃が休憩がてらメイク直しをしているはずだ。
 いよいよ始まる。
 きつく着付けられた袴をゆるめるように、腹から深呼吸した。
 どんな式を挙げたいかと聞かれてもなにも浮かばない累に、凛乃は「逆に、なにをしたくないか」を聞いてくれた。
 人前でのキス、知らない人をたくさん招待すること、信仰してもいない神仏に結婚の誓いを立てること。
 それを尊重しつつ、サムシングフォーだの姪っ子のリングガールだの凛乃の要望を詰め込んだ人前式兼披露宴が、こうして今日、行われようとしている。
 累はすがるような気持ちで、ペットホテルに預けられてぷんぷん怒っていた、つるにこを想った。
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