北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 最初からほかに好きな人が、ほかに養いたい人ができたって言えばよかったのに。わたしが無職になったせいだなんて思わせなくてもよかったのに。
 修羅場でも、ぜんぜんちがっていたはずなのに。
「指輪、買いに行く?」
 累がつないだ手から薬指を探し当て、サイズを測るようにくるりとなぞる。
 凛乃はそれから目をそらすように、首を横に振った。
 握られているのは、右手だ。薬指の意味も重みもちがう。
 累は気づいてないか、単に“薬指”として取り上げただけかもしれない。
 でも「ちがう」としか感情が湧いてこない。
 元カレと直接相まみえながらも、累は意に介してないように見える。
 でも凛乃のほうは、自分のことは棚に上げて、いるかどうかもわからない元カノにすら嫉妬していた。
 それは、わたしが自信がないからだよね。
 大事にされていることはわかるのに自信がないのは、累に頼らないと生きていけない現実があるからだ。累に頼ってもらえるくらいにならないと、きっとずっと自信はない。
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