北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 いつのまにか、駅ビルを出ていた。
 右へ曲がれば駅の構内へ、左へ曲がれば外に出る。
 どっちへ行こうかと立ち止まる累を見上げて、凛乃は声を張った。 
「行きたいところ思い出したんで、先に帰ってもらっていいですか?」
 つないでいる累の手に力が入る。
「おれは行っちゃダメ?」
「ハロワに行きます」
 ショルダーバッグからスマートフォンを取り出しながら、凛乃はきっぱりと言った。
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