北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「今夜の気温は……」
 スマートフォンで調べ始めた凛乃の手首をつかむ。
「ダメ。納戸で寝るのは終わり」
 困り顔の凛乃が反論する前に、累は「エアコンがあるとこで寝てほしい。魔境のベッドにマットレスを戻す」代案を提示した。
「魔境で寝ろってことですか?」
「魔境もイヤ?」
「そういうことじゃなくて、累さんの部屋だったわけだし」
「凛乃の仕事場でもある」
「そうともいえますけど」
 凛乃は段ボールベッドをこたつテーブルの下に入れると、しぶしぶ、といった様子で立ち上がった。
 照明がさえぎられて、長い影が累にかかった。
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