北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 つるつるした生地を這いあがって、ホックに手をかけた、ときだった。
 凛乃とくっついている腹のあたりに、なにかがぐりぐりと押し込まれてくる。
 凛乃の腕なら累の頭をしっかり抱え込んでいるし、膝や足先が入れる位置ではない。
 さすがに口唇を離したとたん、
「あーぉ」
 と甘えた声を出された。頭突きでふたりを引き離した、つるにこに。
「つ……」
 呼びかけようとして、ハッとして凛乃を見る。
 凛乃はパッと飛びすさって、両手で顔を覆った。
「ひゃあぁ」
 我に返ってしまった凛乃は、キッチンに逃げ去って行った。
 その背中に向けて、「みゃう」とつるにこが勝ち誇る。
 凛乃の警戒はあながち間違ってなかったようだ。つるにこは甘えただけだとしても、結果として妨害された。
 かといって怒れもしない。
「やってくれたな」
 累はつるにこの小さな頭を包むように撫でて、溜息をついた。
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