北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 だから許す、ってことじゃないけど。
 凛乃は「着替えます」と、不満を切り上げた。
 身体を離した累が、チェストの上にあったキャミソールを取る。
「ちゃんとした服を着て、すぐごはん行きます」
 受け取りながらもそう言うと、累が少し考えこんだ。
 それからおもむろに来ていたTシャツをすぽっと脱いで、すぽっと凛乃にかぶせた。
「待ってる」
 笑顔を残してゆく累の引き締まった背中を、ゆるゆるの襟から目だけ出して見送る。
 ばたん、と扉が閉まると、ふぅーっと長い溜息を吐いた。
 呼吸のセオリーとして次は大きく息を吸って、意図せず満ちた累の香りが、凛乃の胸をきゅんきゅんと締めつけた。
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