北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「忙しいですか?」
「そうでもない」
 タンブラーに口をつけた累から、コーヒーの香りがこぼれた。
 午前中、ふたりで商店街に出かけたときに初めて入った店で、冷めてもおいしいブレンドというから選んだ豆だ。
「ん、おいしい」
「よかった」
 今日も、ちょうどいいぬるさだったみたい。
 猫舌の累がためらいなく飲んでくれることに、小さな喜びを覚えながら、自分もするりと喉に流し込む。
 累は凛乃の腰から離した手でマウスをつかみ、トランプを次々消していく。
 フランス語で占められた通販サイトらしい画面が閉じられたところで、凛乃は冗談めかして言った。
「もう不良品を貯めこむスペースはないですからね」
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