北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
「輸入代行の手伝いはもうやらないから、だいじょうぶ」
「そうなんですか」
 ふりむくには近すぎて、顔を半分だけ横に向ける。
「日本支社が業務提携先に吸収されて、夏前から受注発送とかぜんぶ、そっちでやってる」
「じゃあもうまったく、ノータッチに?」
「書類上の残務処理がちょっとあるくらい」
 累が答えながら、新しく日本語の通販サイトを立ち上げた。
「なにか欲しいものあったら言って」
 贔屓の日用品買い入れネットショップだ。
 凛乃のリクエストを促すように、ゆっくりページが繰られる。
「お父さんとのお仕事、なくなっちゃったんですね」
 在庫を頭のなかで確認しながら、凛乃は話を少し戻した。
「そうでもない」
 累はそっけなく言って、お徳用トイレットペーパーを買い物かごに放り込んだ。
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