北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 マタタビを与えられた猫みたいなものだ。
 そしてそんな累に応じるときの凛乃もマタタビ猫になって、累を求めてくれる。
 ちらりと横目で見ると、凛乃はスマートフォンを胸に抱くようにして、下りようとするまぶたと勇ましく戦っていた。
 その顔が、縁側で舟を漕ぐつるこになんとなく似ていて、累の口元がほころぶ。
 もうあと左の道に行けば佐佑邸のまえに続く通りだったけど、入らずに素通りした。
 眠気が強いときは少しの時間でも眠ったほうが、身体はラクだ。
 町内を軽く一周するつもりで、累はハンドルを切った。
 つるこは。
 つるこも、さいしょはそっけない猫だった。
 短いつきあいのなかで、甘えてくれたことなんて数えるくらいしかない。
 でも、好みのごはんを発見したり、提供したお昼寝ポイントに狙い通りに来てくれたときには、気持ちが通じたと思えた。
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