北向き納戸 間借り猫の亡霊 Ⅱ 『溺愛プロポーズ』
 それでもいなくなってしまったのは、きらわれていたからだ、とは言わない。
 ただ。そう。
 つるこは、あの家に“間借り”していただけ。
 累は口唇を「あ」の形に開いた。
 そういえば凛乃は、今夜も三毛猫色だ。
 くすんだレンガ色と白の重ね着風Tシャツに黒髪。
 凛乃もまだ、あの家に“間借り”している。
 累は点滅する赤信号で静かに停まると、こちらに身体をかたむけて眠る凛乃のおでこに、キスを押しあてた。
< 96 / 317 >

この作品をシェア

pagetop