独占欲に目覚めた御曹司は年下彼女に溢れる執愛を注ぎ込む
「葵」

彼女の晴れ舞台に、須和はひっそりと微笑んだ。
今日は自分にとっても、葵にとっても一生忘れることができないだろう。
長年の夢が叶った日なのだから。


「……柾さん」

全ての取材を終え、大きな花束を持った葵が須和の元に駆け寄ってきた。
彼の前だけに見せる可憐で控えめな笑顔は、昔の葵そのままだ。

「葵、帰ろう」

須和の言葉に葵は小さく頷き、当たり前のように腕を絡める。


(葵、愛してるよ)


本当は、あの時。
何も掴めていない君を自分の腕の中に囲っておきたかった。
自分以外を必要としないくらいに、縛っておきたかったーー。

そんな彼の本音を、葵が知ったらどう思うだろう。

葵は須和の予想を遥かに超えて飛躍した。
羽柴一族、義則の社会的抹殺が済んだら、須和は早々に葵に日本に戻るよう仕向ける予定だった。

それがいざ手を差し伸べた時。
彼女は須和の助けが全く必要なくなっていたのだ。


「柾さん、どうしたの? ボーっとしてるけど」

「……なんでもない。今日は一日中人に囲まれてさすがに疲れたかも」



葵は綺麗だ。

誰にも染まらず、自分自身に彩を与え変化していく。
そしてそれを、僕は優しく見守って愛で続ける。


そう悟って、須和は葵の髪をそっと撫でた。
< 183 / 209 >

この作品をシェア

pagetop