エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 そんな俺の固い意志がぐらりと変わったのは、九年前に千菜の祖母が亡くなったときだ。くも膜下出血だった。

 自宅ですでに意識を失っており、救急車で病院へ搬送されて緊急手術になったが、そのまま意識は戻らずに息を引き取った。

 祖母の死から一か月が経っても千菜は泣いていた。当然だ。彼女の両親は仕事が忙しくてあまり家にいなかったから、千菜は祖母に育てられたようなものだ。

 これから先もまだ一緒にいられると思っていた存在をある日突然失って、千菜がどれほど傷付いたか。その死を受け止められず、立ち直れなくても当然だと思った。


 そんな千菜のために、俺に何かできることはないだろうか――。


 彼女の泣いている姿を見てふとそう考えている自分がいた。

 そして気が付いた。

 俺は、千菜の祖母の命を奪った脳の病気を治せるよう脳神経外科医になろう。

 だからといって千菜の祖母はもう戻ってはこないが、同じような病気で苦しむ人を助けたい。それが千菜のために俺ができる唯一のことのような気がした。

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