エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 読書が趣味だという春子さんは港町図書館が開館した三十年前から通っているらしく、今も毎週欠かさずに通い続けている。

 もしかしたら、この図書館に勤務して四年目になる私よりも館内に並ぶ本について詳しいのかもしれない。


「借りた本、入口まで持ちますよ」


 この時間帯の館内は比較的落ち着いている。私の他にもカウンターで仕事をしている同僚がいるので、彼女に声を掛けてから私はカウンターを出た。


「いつも悪いわね、千菜ちゃん」

「いえいえ」


 私たちは図書館の司書と利用者という関係だけど、お互いを『春子さん』『千菜ちゃん』と呼び合う仲だ。

 というのも、春子さんは九年前に亡くなった私の祖母に雰囲気がとてもよく似ている。だから一方的に親近感を抱いてしまい、春子さんが本の貸し出しに来るたびに声を掛けていた。

 ある日、亡くなった祖母に春子さんが似ているのだと打ち明けると、彼女も私のことを孫のように扱ってくれるようになり、それ以来、親しくさせてもらっている。


「そういえば春子さん。定期健診にはしっかり行った?」


 風呂敷に包まれた本を両手で抱えるようにして持ちながら、春子さんのゆっくりとしたペースに合わせて館内を移動する。

< 40 / 243 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop