エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~


* * *


『私が結婚ってどういうこと⁉』

 沢野家のリビングに私の叫び声が響き渡ったのは今から一か月前のこと。

 仕事を終えて、同僚と焼肉屋でがっつりと夕食をすませてから帰宅すると、珍しくリビングには父親の姿があった。

 ソファにくつろぎながら母親の淹れたコーヒーを優雅に堪能している。その姿を見たときから少しだけ違和感はあった。

 私の父親の玉蔵(たまぞう)、五十九歳は都内にある某難関私立大学の文学部で教授をしているのだけれど、研究に没頭するあまり普段は大学近くのマンションを借りて生活をしている。

 私と母が暮らす神奈川の実家に帰るのは月に一度……いや、三か月に一度……じゃなくて半年に一度だったかな?と、曖昧になってしまうほど、玉蔵が家にいるのは珍しいことなのだ。

 それは私が幼い頃からなので、私は玉蔵との思い出がほとんどない。授業参観も運動会も音楽会も玉蔵は一度も出席したことがなかった。

 だからなのか、玉蔵は私の父親だけど父親らしいことを一度もしてもらったことがないので、たまに家にふらりと帰ってくるおっさんとしか思えない。

 そのせいもあり呼び方も『お父さん』ではなくて『玉蔵』と名前で呼んだ方がしっくりとくる。本人はパパと呼んでほしいらしいけど絶対に呼びたくない。

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