エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望~独占欲全開で娶られました~
 小谷さんが水に濡れて膨れ上がってしまった本を撫でながら口を開く。


「中澤さんのご家族の話だと、救急車を呼ぶのが早かったから、病院に到着してからの治療がスムーズにできたって言ってたよね。私たちが感謝されたけど、全部あのお医者さんのおかげだよ」


 今日の午前中、春子さんの娘さんが図書館を訪れて、素早い対応で救急車を呼んでくれたことのお礼を言われた。

 でも、私たちは何もできなかった。救急車を呼ぶ判断が早かったのもあの場に医者の貴利くんがいてくれたから。きっと私たちだけだったら昨日のような迅速な対応は取れなかったと思う。

 小谷さんの言う通り貴利くんのおかげだ。貴利くんがいてくれて本当によかった。

 港町総合病院に運ばれたのなら、救急車に同乗した貴利くんがそのまま処置をしてくれたのだろうか。貴利くんの専門は脳らしいから。


「ねぇねぇ。沢木さんはあのお医者さんと知り合い? あの人、沢木さんのこと“千菜”って呼んでいたでしょ」

「は、はい。まぁ、ちょっとした知り合いですけど」

「どういう関係? もしかして彼氏?」

「ち、違います。ありえません」

 私は慌てて否定した。

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