エリート脳外科医の溢れる愛妻渇望～独占欲全開で娶られました～
　そういえば、春子さんが倒れてしまった騒動ですっかり忘れていたけれど、あの日、貴利くんの様子がどこかおかしかった。


『俺はできれば千菜に好かれたい』

『あの頃みたいに俺に笑顔を向けてくれ』


　私に向かってそんなことを言っていた気がするけど、あれはどういう意味なのだろう。


　どうして私に好かれたいの？

　どうして私の笑顔が見たいの？


　貴利くんにそう言われたときの私はかなり困ってしまった。だって嫌いだと思っている人を好きになるなんて無理だし、笑顔を向けることだってできるわけない。

　でも、今はそんな気持ちが少しだけ変わり始めているのかもしれない。だから、あんなに拒んでいたはずのデートをする気になったのかも……。

　だからと言って貴利くんと結婚したいとはまったく思わないけれど。


「千菜ちゃんが貴利くんと結婚してくれたらママも嬉しいのに」


　キッチンから母親の呟き声が聞こえた。

　どうやら彼女も結婚賛成派らしい。敵がまたひとり増えてしまったようだ。

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