別れたはずの御曹司は、ママとベビーを一途に愛して離さない
聞けばずさんな現場管理に立腹した旦那さんが完成内覧会を拒否した辺りから向こうの会社の人の態度が急変したらしい。そこから揉めに揉めてよく分からない誓約書にサインを求められ、それにサインしなければ工事を進めないという旨の連絡がきたらしい。

「それでね精神的にやられてて。私たちだけじゃなめられて話にならないから弁護士さんを捜し中なの」

「そうだったんだ……」

「凛子、お父様の知り合いとかで優秀な弁護士さん知らない?」

「うーん。弁護士ね」

頭に浮かんだのは渚さんの顔だ。

慌てて手帳を取り出して中に挟んであった彼の名刺を取り出す。

「その人凛子の知り合いの弁護士さん?」

「知り合いというかお店のお客さん。プライベートでたまたま会って名刺をもらったの」

「あさひ法律事務所って有名なところだよね? その人って堅物な感じ?」

「いや。物腰柔らかい感じだよ」

美紅の顔がパッと明るくなったのが分かる。

「その人紹介して。凛子の知り合いなら絶対にいい人だもん!」

「でも私、数回しか顔を合わせたことがないし住宅関係が専門か分からないよ」

「今まで行ってみた法律事務所、全部堅物な感じで話にくくて聞きたいことも聞けずじまいだったの。だから物腰柔らかい人がいいからぜひ紹介して」

「……分かったよ」

美紅に押されて渋々承諾した。そもそも美紅の前で渚さんの名刺を出してしまった地点で紹介しなければ私はただの嫌味なやつに過ぎない。

親友が困っているのだから助けてあげたい気持ちはある。渚さんとはまだ数回顔を合わせたに過ぎないが、彼ならば信用できる気がする。
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