蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


「俺みたいなのが瑛美さんに近付いちゃいけないって分かってます
俺に関わらなければ陽の当たる場所を歩いていける
それでも瑛美さんが好きなんです」


そこまで言うと、隣に座る瑛美が
ポロポロと涙を溢し始めた


「・・・瑛美は、どうなの?」


母親の問いかけに


「私は、チョコを貰ってくれただけで十分
聡太君にはもっと相応しい相手がいるから・・・」


自分は身を引くのが当然というような答えを出した


「じゃあ、瑛美は聡太君の為に気持ちを殺して離れるって選択をするんだね?」


「・・・うん」


そこまで聞いた父親は大きな声で笑い始めた


「「「・・・?」」」


「そんな簡単に諦められるのは
瑛美は大して聡太君のことが好きじゃないんだよ」


「違うっ」


「好きならどんなことをしても側にいたいって思うだろ?」


「・・・それは」


「瑛美はね、いつも自分のことを後回しにする癖があるんだよ
それは親が不甲斐ない所為なんだけど
本当は高校へだってどんなことをしても行かせてやるつもりだったのに
勝手に担任の先生に就職するって言ってるし
きっと大学だって瑛美の成績なら行けるはずなのに
就職することにしたんだろ?
下の子達を育てるのは親である父さんと母さんの務めだから
瑛美は自分の好きなことをすれば良いんだよ?
だからね?聡太君が好きなら、その気持ちに素直になれば良い
聡太君は・・。そりゃ、親として娘には平凡でいいから普通に幸せになってもらいたい。
でもね。その“幸せ”も“普通”も娘が決めることで親が口を挟むことじゃない
だから・・・二人が一緒に居たいなら
誰に遠慮することもない。
ただ、大事な娘だから。怪我をさせたり泣かせたりしないで欲しいな」


瑛美を想う父親の話に
瑛美は声を上げて泣き出し


「「「「ワーーーー」」」」


突然開いた襖から
ドーっと兄妹が雪崩込み

騒がしい中で


「聡太君、よろしくお願いします」


瑛美の泣き笑いの顔が見えた


「あぁ」


今度こそ、この笑顔を守ってやる


強く、強く、思った



side out


















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