蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


「あ、いらっしゃ〜い」


チケット販売に瑛美ちゃんが立っていた


「この次ならカップルシート押さえられるよ?」


チケットと座席表を見ながら教えてくれた瑛美ちゃんに


亜樹は迷わず「三つ」と指を立てて
チケットを買ってくれた


数分待っただけで入った教室は
夏の夜空が再現されていてドキドキする


「蓮は此処」


指差したのは床に座った大ちゃんの足の間で


「・・・む・」

「蓮、約束」


無理と言おうとした口は
大ちゃんの言葉で閉じてしまった


・・・シマッタ

なんて思った時には
「上映しまーす」と声が上がったから

『ノー』と言えない約束をした私は
さっきとは違う意味のドキドキに呼吸を早くしながら

なんとか大ちゃんの足の間に座った


「いらっしゃい」


途端に背後から抱きしめられ
大ちゃんの息が首筋にかかる


「あの、大ちゃん?」


「ん?」


「約束ってこれで・・・」


「終わりじゃないよ?」


柔らかな声なのに有無を言わせない圧を感じる大ちゃんの声に


ハハと乾いた笑いが出た


「蓮が決めたんでしょ?」


「・・・うん」


確かにそうなんだけれど
なんだか策略にハマっている気がするのは気の所為?


上映が始まって音楽が鳴り始める


一面に映し出される夜空に見惚れていると



「蓮」


耳元で囁く大ちゃんの声に顔を向けた


「・・・っ」


顎を固定されて合わせられた唇


此処には他の生徒も大勢いる
それだけでパニックに陥りそうになるのに


段ボールで囲われたカップルシートだからか

大ちゃんは大胆にもキスを繰り返す


「声、出すとバレちゃうよ?」


抱きしめられた耳元で聞こえた意地悪な声に頬を膨らませる


それを「可愛い、蓮」と長い指で潰した大ちゃんは

私を簡単に横抱きにすると
また唇を塞いだ





あのね、大ちゃん

いつだって『ノー』は受け付けてもらえないんだよ?







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