蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



・・・・・・
・・・




ーーー六年前







「蓮ちゃん、母さんが『今日はお庭で遊んじゃダメ』って」


学校が終わるとそのまま大ちゃんの家へ帰る

それは店が忙しい祖父のために
大ちゃんのお母さんである“飛鳥さん”が提案してくれたもので

幼稚園の頃から一日も変わらず続いている


「じゃあ、大ちゃんの部屋ね?」


「うん」


大ちゃんの家は中心駅の裏側
オフィス街を抜けた辺りに広がる

所謂、山の手高級住宅街の中にあった


幼くてよく分からなかったけれど
絵本の中に見るようなお城みたいに可愛いお家には
不似合いの黒い服を着た大人が沢山立っていたし

大ちゃんは『坊ちゃん』って呼ばれていたから

お金持ちなんだと思う

幼稚園の頃から送迎は車だったし
それは小学校に入っても同じことだった

幼稚園の頃から毎日毎日大ちゃんと一緒に過ごす私は

それが普通だと思っていたけれど



・・・・・・あの日



それは大きな間違いだったと
思い知らされることになった




『お庭で遊んじゃダメ』


珍しく飛鳥さんに行動を制限された日


大ちゃんの家は可愛らしい家なのに
どこかピリピリとした張り詰めたような雰囲気に思えた


いつも助手席に座って面白い話を聞かせてくれる
近藤和哉《こんどうかずや》さんは
車が家に到着すると、大ちゃんと私を隠すように両手を広げて廊下を歩いた


・・・・・・どうしたんだろう?


気になったけれど
大ちゃんの部屋に着いてからは

それもスッカリ忘れていた






< 14 / 160 >

この作品をシェア

pagetop