蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


おやつタイムはいつものチーズケーキ
大ちゃんの部屋で食べるのは珍しくて

和哉さんがジュースまで持ってきてくれた


「飛鳥さんは?」


チーズケーキがおやつになる日は
必ず飛鳥さんが一緒のテーブルに着く

今日は例外だけれど
飛鳥さんだけは大ちゃんの部屋へ来てくれる気がして和哉さんの顔を見た


「ねえさんは、今日は忙しくて」


和哉さんを含めて大ちゃんの家に居る人達は飛鳥さんのことを
『ねえさん』と呼ぶ


もしかして飛鳥さんの弟なのかな?って聞いたら
『ハハハ、蓮ちゃんは面白いな
弟じゃないけど“姉”のように慕っているから、そんなもんだな』

理解できない返事がきたことがある


理解はできないけれど
飛鳥さんは『ねえさん』
大ちゃんのお父さんの瑞歩さんは
『親父さん』ってことは覚えた


おやつを食べた後で宿題を済ませて
最近大ちゃんから教わっているゲームを始める


「部屋から出ないでください」


和哉さんはそう言い残していなくなった


「大ちゃん昨日ね?お庭の豊田さんが『今年もハスが咲きそうですよ』って言ってくれたの」


「クク、知ってるよ、蓮ちゃん
今年は池に落ちないでね」


「・・・っ、うん」


毎年夏頃から咲くハスの花
大ちゃん家のお庭でそれを見つけた時
その美しさに理由も分からず泣いてしまった

お昼には閉じてしまう儚い花を
夏休みは早起きして見にきたことを思い出す

大ちゃんの笑いのネタは
もっと近くで見たくて、迂闊に身を乗り出した結果だった


タブレットを覗き込みながら
何気ないお喋りをする時間が大好き

だってね。
大ちゃんはどんな小さなことも全部覚えていてくれて

ちゃんと答えてくれる

それに、私の好きな花のことも
お菓子もテレビ番組もアクセサリーも

『蓮ちゃんの好きなことは全部好きだよ』って言ってくれる


そんな大ちゃんのことが私は大好き
いつからなんて覚えてないくらい
気がついた時には大好きになっていた

大ちゃんと一緒に居るだけで同じように笑顔になれる

大ちゃんと一緒に居るだけで両親が居ない寂しさが薄れてきちゃう

大ちゃんは魔法使いみたいなの


大ちゃんは忘れちゃったかもしれないけれど

幼稚園の頃の『おやくそく』は
『ぜったい』破らない



私の宝物。







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