蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


言付けを破ってお庭へと出た私は
コタを小屋まで送り届けた

急いで帰ろうと踵を返した瞬間

手を伸ばせば届く距離に立っている人に息を飲んだ

・・・だれ?

白髪混じりの短髪に濃紺の羽織り
鋭い眼付きのその人からは
敵意しか感じられなくて動けなくなった



「・・・っ」


「此処でなにをしてる」


「・・・あ・・・あの、コタを小屋まで連れてきました」


「この家に何用かな?」


「・・・あの、私は・・・大ちゃん」
「あぁ、そうか、お前か」


答えようとした声が途中で途切れた

それは・・・

目の前の人が放った“お前”という声に怒りが込められていたから


「なぁ、お前に忠告してやる」


ニヤリと口角を上げたその表情は
笑っているのに怒りの感情しか感じられなくて身体が震えだす


「山之内はニノ組にとってただの目
その“目”ごときがニノ組の跡継ぎと
一緒に居られると思っているのか?」


“ニノ組”とか“目”とか“跡継ぎ”とか
難しいキーワードが並んで理解に苦しむ


「アイツはいずれ此処を背負って立つ身
今でもあれだけのルックスだ・・・
毎日取り入ってくる女達に囲まれるだろう。
その第一歩、今日はアイツの顔見せの日だ
これからちゃんとした家の娘が
競ってアイツの相手になろうとするさ
この家を継ぐアイツに相応しい相手は
お前ごときじゃないことくらい分かるよな?」


混乱した頭に矢継ぎ早に告げられる話


・・・大ちゃんに私は相応しくない


そう言われていることだけは理解できで胸が苦しくなる


「毎日お荷物を押し付けられて面倒見てるが
そろそろ分不相応を理解して自ら身を引く頃合いじゃないか?」


「・・・」


「アイツは優しいから“来るな”とは
言い辛いだろうな」


「・・・」


「今まで世話になったんだから
散り際くらいキチンと恩返ししねぇとな」


「・・・」


「綺麗なお嬢が今日はアイツに見初めてもらえるように着飾ってやって来てるんだ
ここまで言えば意味分かるよな?」


畳み掛けるように続けられる話を
ようやく理解できた時には

泣くことができないほど
心が砕けていた



・・・



ねぇ、大ちゃん


私って・・・もしかして


お荷物だった?




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