蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


リリリリリリ


大ちゃんのポケットの中から
けたたましく鳴る携帯電話


「蓮ちゃん、ちょっと待ってて」


大ちゃんはそう言ってタブレットを私の手に持たせると

携帯電話を耳に当てながら部屋を出て行った


「・・・・・・」


あんなに楽しかったゲームが
大ちゃんが居ないだけでつまんない


陽当たりの良い部屋が急に寂しく思えた


タブレットをソファに置いて
窓からお庭を眺める


瑞歩さんがゴルフの練習に使う広い芝生のお庭には

飛鳥さんが『可愛いでしょ?』ってお茶に誘ってくれた東屋がある

いつもは花を育てている豊田さんや

隅に立っている黒い服の人達も
今日は姿が見えない


「今日はお薬の日かな?」


呟いた声は誰に拾われることもなく消えて急に寂しくなる


年に数回、お花や庭木の害虫駆除のためにお薬を散布する日がある

その日はお庭に出られないから

もしかしたらその日かもしれない


そんなことを思った私の視界に
白いものが見えた


「え?コタ?」


東屋の方から駆けてきて
私に気付いたのか窓の下でお座りをした

お薬の日ならコタが外を走ってたら死んじゃうかもしれない

勝手な解釈をした私は
『今日はお庭で遊んじゃいけない』という言葉を忘れて

窓の鍵を開けた


途端にクゥーンと甘く鳴いたのは
大ちゃん家で飼っているホワイトシェパードの虎太郎

“こたろう”と呼び難いからという理由で

命名した瑞歩さん自ら“コタ”と呼んでいることもあって

此処では皆んな“コタ”呼びになっている

いつでもお庭へ出られるようにと
窓の下に置いてある靴を履いて外へと降りた












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