蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


コンコン


控えめなノックが聞こえて扉を開く


「蓮《れん》、今良い?」


シンとした廊下に立つのは
東美《ここ》へ入学以来
唯一仲良くしている山野香衣《やまのかえ》

生まれて初めて出来た“友達”

「どうぞ」


大きく扉を開けば香衣は
「お邪魔しま〜す」と大きなトートバッグを抱えたまま入って来た


寮の部屋は四年生から個室が与えられる

その部屋はワンルームで
バス、トイレ、ミニキッチン付き


ミニキッチンは料理を作るというよりも
お茶を用意する程度の造りになっている


「紅茶で良いかな?」


「うん、ありがとう」


香衣の笑顔を見ながら
ティーポットを用意していると
視界の隅でトートバッグからお菓子を取り出す様子が見えた


「新作?」


「うん、そうなの・・・
抹茶シリーズが出たの」


季節商品に目がない香衣は
寮の向かいにある学生生協で発売初日にそれらを仕入れてくる


「じゃあ緑茶の方が良かったかな?」


今ならまだ間に合うと声を掛ければ


「良いの、蓮の紅茶が飲みたい」


いつものようにフワリと笑った



東美では与えられる課題が多すぎて
クラスメイトはいつまで経ってもクラスメイトのままで

仲の良い友達になることは珍しい


それなのに入学して早々に仲良くなれた香衣とは

出席番号が私のすぐ前で寮の部屋が
二人部屋で一緒になったことより



両親が亡くなっているという共通の理由が大きかったと思う




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