蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


両親が亡くなったのは
物心つく前の三歳の頃

その後、私は
父方の祖父母に引き取られた

だから・・・

写真では見たことのある両親も
声だけは覚えていない

ただ・・・
沢山あるアルバムの中の小さな私は
どれも母と一緒に無邪気な笑顔を見せていて

極端に少ないけれど
父との写真もある

母はロシア人と日本人のハーフだったようで
交換留学生として日本に来た時に父と知り合ったらしい

クォーターの私は瞳も髪も父に似て黒い
ただ、肌の白さと目鼻立ちだけは母譲りのようで
小さな頃から『ハーフ?』ってよく聞かれた

もちろんその頃は“ハーフ”の意味も知らず
両親が居ないことか、なにかだと思っていた

母の両親のことは祖父も話さないし
私からも聞いたことがない

優しい祖父母に育てられ
両親が居ないこと以外で不自由に思ったことは一度もない


祖父は東の街にある中心駅から
南北に二キロ程伸びる大通り沿いの北の端でカメラ屋を営んでいる


昔はカメラのフィルム現像で繁盛していたけれど

今はその現像も激減
専らカメラの修理の依頼や
年代物のカメラマニアとのお茶会が忙しいらしい


祖父の店がある駅から北側はタワーマンションやギャラリーなど

景観重視の統一された
落ち着いた街並みが続いている


それと真逆の南側は繁華街を皮切りに
コンサートホールやショッピングモールと

人の動きが活発な地域


特に繁華街は夕刻を過ぎれば
ガラリと様子を変えることから

東美に入学するまでの十年余りで
南側へは祖父母に連れられた以外では足を踏み入れたことはない
















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