蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



「本当にありがとうございました」


俺が聞きたいのはそんな言葉じゃない


泣き出しそうな表情と震えて見える蓮を
どうにか引き止められないかと声をかけた



「蓮」


すぐ目の前で呼びかけると
肩をビクつかせた蓮は動かなくなった
その反応を見るだけで胸が苦しくなる


「もう・・・俺の顔を見るのも嫌か」


言いたくない言葉が口を突いて出てくる
俯いたままの蓮からその答えは出てきそうもなくて諦めた


「花、悪いことしたな」


サッと扉を開けて廊下で待つ聡太へ声をかける

小走りで近づいた聡太は
「どうぞ」と花を渡してくれた

「ありがとな」

もう一度聡太にお礼を言って
目の前の蓮へと差し出した


「ほら」


押し付けるように花を近づけ


「受け取って欲しい
蓮の花は俺達を囲んでた女達が
ダメにしてしまった
巻き込んだことのお詫びだと思ってくれて良い」


そう言うと蓮は花を受け取った


「体調が悪くなったら遠慮せずに
橘院長へ連絡すると良い
その方が俺も安心する」


「・・・はい」


「それから・・・」


検査を待つ間に書いたメモをポケットから出した


「俺の連絡先」と差し出せば


「今日はお世話になりました。
それから、お花もありがとうございます。
身体のことは大丈夫です。何かありましたら橘院長へ連絡します」


蓮は綺麗なお辞儀を見せたあと
メモを持つ手は完全に無視


「ごきげんよう」


心が凍るような感情のない声を出して
病室を出て行った











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