蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


ーーー二週間後




(大和!蓮ちゃんがっ)


お袋の焦った声を聞いたのは
誠さんのカメラ屋で紅茶を飲んでいる時だった


「あ゛?」


(橘病院へ運ばれたから来てっ)


それだけ聞くと誠さんと一緒にタクシーへ飛び乗った

すぐさま親父に電話をすれば
事故の状況が見えてきた


前回も橘病院送りになった蓮

けれども今回は車道へと飛び出した小学生を庇って和哉の車と接触したという


「蓮はおてんばだったかな?」


気を紛らわすように皮肉った誠さんも
表情は不安に曇っている


橘病院へ到着すると
誠さんのことも忘れて飛び出した


「若っ」


泣き出しそうな顔をして待っていた和哉は
蓮が検査中であることと

骨には異常がなかったことを教えてくれた


「申し訳ありません」


深く頭を下げる和哉の肩に手を置く


「お前の所為じゃねぇ」


「でも・・・」


「咄嗟に避けたと聞いてる
良くやったな」


そう声を掛けると

和哉は堪えていた涙が頬を伝うと同時に俯いた


「・・・っ、若っ」


「死んだ訳じゃねぇんだ
縁起でもねぇ、泣くな」


「・・・しょ、う、ちっ」


ガキの頃から俺と蓮を一番近くで護ってくれていた和哉

その和哉の運転する車が飛び出してきた蓮と接触したのだ

・・・なんという巡り合わせだろう

和哉の気持ちは手に取るようにわかる

だが、大事には至らなかったのだ
いつまでも辛気臭い顔をしてはいられない


結局・・・


意識が回復しないまま
入院が決まった蓮は特別室へと運ばれた


病室の外では小学生の女の子が
蓮の名前を呼びながら泣きじゃくっていて

両親に宥められている

事情聴取のための警察官も待っていて

今日は会えないだろうと諦めた


「お袋、携帯貸せ」


「ん、あぁ、はい」


青白い顔をしたお袋の携帯電話を受け取ると

盗聴システムを立ち上げた

・・・やってることは犯罪だな

自嘲するように呟いて
お袋の耳にピアスが付いていることも確認した


最終的な仕上げに

橘院長へと“お願い”をすれば
渋々ながら頭を縦に振った




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