蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


大ちゃんの提案は“決定”だったようで
九日間の入院を終えた私は


「甘えておいで」と意味不明な祖父の見送りで


あの日以来の大ちゃんの家へとやって来た


「蓮」


車から先に降りて手を出してきた大ちゃん

その手を掴むことは簡単なのに
視線の先に見えた屋敷に身体が動かなくなった


それに気づいてくれた大ちゃんは
もう一度車の中に戻ってくれて


「大丈夫だ、蓮」


抱きしめて落ち着かせてくれた後で


「俺が抱き上げて行こうか?」


顔を覗き込んできた


「・・・や、ダメっ」


だって顔が本気なんだもん


「さぁ、行くぞ?嫌な思い出を
今日塗り替えるんだからな?」


「・・・・・・うんっ」


大きな門を潜った中に止まった車から大ちゃんと手を繋いで降りる


「「「「お帰りなせぇやし」」」」


途端に聞こえた野太い声に肩が跳ねた


「ただいま」


柔らかな大ちゃんの返事に
整列している黒服の人達が一斉に頭を下げた


・・・・・・凄い


なんで気づかなかったんだろう
六年前だってこうやって出迎えられていたし

お庭や屋敷の至る所に立っていた人達は全て此処の組員さん達だったのだ


「蓮も」


「ん?・・・あ、ただいま」


あの日と同じように返事をすれば


「「「蓮ちゃん、お帰りなせぇ」」」


懐かしい顔がチラホラ見えた








< 61 / 160 >

この作品をシェア

pagetop