蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



下駄箱を教えて貰ってから
理事長室へと向かった


理事長は大ちゃんとのことを知っているらしく
話は簡単に終わり、担任が来るまで待機になった


暫くしてやって来た先生は
優しそうなお爺ちゃん先生で


少し雑談をした後で
一緒に教室へと移動した

既に全校生徒は教室で朝のHRの時間


「ちょっと待っててね」

そう言うと先生は前の扉から


「じゃあ、後でね」

そう言った大ちゃんは後ろの扉から教室へと消えた

シンとした廊下で待たされることなく
直ぐに開いた扉から教室へと入る


途端に騒つくのに若干驚いて
視線を移せば

後ろの席に座る大ちゃんが見えた


「自己紹介ね」


担任の先生に促されて
一度大きく息をする


「山之内蓮と申します
どうぞよろしくお願いいたします」


東美の理事長先生の声が頭を過ぎり

丁寧にお辞儀をすると
教室は一層騒ついた


「では、山之内さん、席は」


そう言った先生に被せるように


「蓮」


大ちゃんの声が上がった


緊張がピークに達している私の助け舟に思えて
大ちゃんの顔だけを見て早足で机の間を歩いた


「ここ」
そう言った大ちゃんの声に促されて
窓際から二列目の後ろから二番目
大ちゃんのひとつ前の席に座ると


「蓮、久しぶり」


斜め後ろから声がかかった

その声に振り返ると
懐かしい顔があった


「亜樹」


微笑んだ私にまた声がかかった


「俺も、久しぶり」


隣の席だったのは


「永遠」


懐かしい顔と変わらない二人に
少しずつ緊張が解れる


「久しぶり、元気だった?」


「あぁ、大和以外な」


そう言った亜樹は笑っていて
大ちゃんは少し拗ねた顔をしている

そのやり取りさえ嬉しい


「はじめまして」


前の席から振り返った女の子に
目が釘付けになる


「・・・琴ちゃん?」


「え?名前知ってるの?」


「あ、うん。大ちゃんの予習で」


「大ちゃん?」


首を傾げた仕草さえ可愛い琴ちゃんに


「それは蓮だけの特別な呼び方だ」


亜樹は色々買い摘んだ説明をした








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