蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜


「「行ってきます」」


瑞歩さんと飛鳥さんに見送られ
玄関で小さく手を振った


「緊張してる?」


「・・・少し」


「じゃあ、手を繋いで行こう」


「ありがとう」


大ちゃんの制服も同じチェック柄のパンツで

ペアルックみたいで楽しいのに
緊張で喉がカラカラ
大ちゃんが普段はかけない伊達メガネを着けているのも理由も聞けない


和哉さんにも


「若に任せていれば大丈夫」

なんて笑われて

学校へ着くころには二歳くらい歳を取った気分だった


守衛さんの立つ門を潜り
車寄せに到着すると

先に降りた大ちゃんが手を差し出した

自然にその手を掴んで降りると

遠巻きの生徒の騒めきが止んだ


「・・・っ」


その反応を思い出して肩が跳ねる


小学生の頃に
大ちゃんと一緒に居るだけで
沢山の視線が集中した

視線の意図は分からないけれど
大ちゃんと一緒に居るのが私じゃダメなんだと

何度となくそう感じたことがある

俯きそうになる寸前


「蓮、俯くな、顔を上げろ
俺の隣に立つということは
好奇の目に晒されるのに慣れること
負けるな」


大ちゃんの強い言葉に踏みとどまった


「俺が護ってやるから俺を信じろ」


見上げた大ちゃんの視線は強い意志を持っていて

その瞳に応えるように頷いた

その頷きに口角を上げた大ちゃんは


「さぁ、行こう」


柔らかな言葉で手を引いた


周りを見ればウッカリ負けそうになるけれど

離れていた六年を思い出せば
一緒に居られることに感謝しなきゃって思える


「頑張る」


小さく呟いてしっかりと前を向いた


「うん、それでいいよ」


やっぱり大ちゃんには聞こえていたようで


不安な気持ちが温まった






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