無名ファイル1

「着物…嫌いだったの?」

蛍は黙って立ち止まった。

冷たい風が私達の間を吹き抜ける。

蛍の表情は見えない…俯いていた。

「…蛍の覚悟が決まるまで待つよ?
それか、キスして情報を掴もうか?」

私は蛍の正面にスッと回り込んで、

蛍の顎をクイッと指先で持ち上げた。

驚いた顔の蛍とバチッと目が合う。

「ふっ、それ根に持ってた?
悪かったって、謝ってるだろう?
それに俺には大した話は無いぞ。」

そんなことを言っている間に、

人気な初詣スポットに到着した。

「人…凄いね。」

「じゃあ、参拝で並んでる間に、
ちゃちゃっと話してしまうか。」

私達は取り敢えず最後尾に並んだ。

「さて、何を聞きたい?」

「なんで着物を嫌いになったのか」

私が間髪入れずに答えると、

蛍は少し困ったように笑った。

「誰も嫌いだなんて言ってない。」

「いや、生放送の衣装が着物だって、
蛍に言った時に一瞬だけ眉間に皺が、
クッ…って寄ってたもん」

よく見てるな、と悪態を突かれつつ、

私は蛍が話を始めるのを待った。

「物心がついた時から女物の着物を、
何の疑問もなく見に纏っていた。」
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