無名ファイル1

帰りの電車に揺られながら蛍の、

彫刻のような横顔を思い出していた。

何を…考え込んでいたんだろう。

「何かあった?」

「ひぇ!!いぃや!?」

いや、まぁ一緒に電車に乗ってるし、

聞こうと思えば聞けるんですがね!!

「魅香、今から家に来ないか?」

彼の首筋を流れる汗に釘付けになり、

ごくりと生唾を飲み込む…。

「え!?いや、私はいいけど…」

忘れるな、蛍はアイドル。

何もない私とは違うんだって…。

「…夏休みは仕事詰めで魅香と、
会えないって唐突に気づいた。」

あ…さっきの考え込む顔。

なるほど、仕事の事考えてたんだ!

そりゃあ、写真集の1ページ的な、

美しい表情にもなりますわな!!

「だから台詞合わせを口実に、
魅香を家に連れ込もうかなと。」

閑静な住宅街を歩いている時、

囁くように言われて私は想わず、

蛍の脇腹を肘で小突いた。

「誤解を招くような言い方しないで!
誰が聞いてるかなんてわからないし、
ファンが聞いたら嫉妬で倒れるよ?」

「大丈夫、レンとは違って俺には、
ガチ恋してるファン比較的少ないし。」

比較的…信憑性の無い言葉だ。
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