無名ファイル1

「機嫌が悪いですね。」

「煩い、ニヤニヤすんな。」

澤田さんの運転する車の中。

初めて聞く荒いドSホタル君の口調。

「はい、着きましたよ。」

「お手を煩わせて申し訳ありません。
本当にありがとうございました。」

車を降りてペコリと礼をすると、

澤田さんはクスクスと笑った。

「月乃さんは礼儀正しいですね。
あなたがホタル君の運命の人なら、
僕はとても安心です。」

その言葉が嬉しくてお礼を言おうと、

口を開くと蛍の声に遮られた。

「澤田…まだ時間あるな?」

澤田さんは困ったように笑う…。

「…5分なら。」

蛍は車を降りると私を見据えた。

むっとした顔で私の頬を撫でる。

「ヤキモチ焼いたの…?」

「…そうだな、嫉妬した。」

今までで一番芸能人の顔だ…。

蛍はそっと首筋に唇を寄せた。

チュッという音と共に微かな痛み。

「ひゃっ!?」

ペロッと唇を舐めて満足そうに笑う蛍。

待って、さっぱり理解が追い付かない。

「…上出来。じゃ、また学校で。」

「あ…うん、またね」

私の唇にキスをしてさっさと踵を返す、

発車した車を私はボーッと見送った…。
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