無名ファイル1

Part5.音楽の故郷


外国語が飛び交うグローバルな空間。

私は大荷物を床に置き、溜め息をつく。

ここはオーストリアの空港…。

「うぅ…私、話すの苦手なのにぃ…」

夏の長期休暇を利用して家族の元へ。

そう思っていたんだけど…。

もう…最悪、迷子になっちゃった…。

「仕方ないか」

私は自力で家へ向かうことを諦めた。

空港のカフェでコーヒーを頼んで、

暫くの間ボーッと思考を巡らせる。

3日前…あの時の首筋へのキスは、

今だにじんわりと熱を帯びている。

「熱い…」

私は蛍の視線を鮮明に思いだし、

カフェの中で一人、悶えていた…。

「お久し振り、気分はいかが?」

背後から懐かしく、優しい…温かい声。

私は無性に泣きたくなってしまった…。

「お久し振りです、元気です。
姉様は…如何ですか??」

私の声に姉も驚いた様な喜んだ様な、

とにかく顔を歪ませて私を抱き締めた。

「お帰りなさい!…お帰り…魅香!!」

「ふふっ…姉様、苦しいですよぉ…」

ぎゅっと私を包み込む優しい腕。

本当は苦しくない…むしろ心地良い。

少し前まで忘れていた温もりに、

私はそっと体を預けた…。
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