無名ファイル1

「只今戻りました」

広い玄関に響く私の声…。

いや、響くというより震えていた。

半年振りにオーストリアの豪邸に、

顔を出したのだ…緊張でガチガチ。

「彩音様、魅香様お帰りなさいませ。
奥様がお待ちです、こちらへどうぞ。」

金髪の長髪を後ろで束ねた美人執事が、

私と姉を部屋まで案内する。

この人だけは私の我儘を聞いてくれた。

昔、親に内緒で友達に犬を貰った時も、

こっそりミルクを持ってきて、

お世話を手伝ってくれたっけ…。

「わっふ!!」

「ただいま、ナイト元気にしてた?」

まぁ、その犬が柴犬のナイトだ。

今も元気に私にじゃれついてる。

今年で五歳の男の子。

「こちらのお部屋になります。」

「ありがとうございます」

私は息を呑んで扉に手を伸ばす。

まずはノックを三回して…。

まるで面接のような緊張感。

「あれ…魅香、帰国してたのか!!」

急に背後から声をかけられ、

びくぅっと肩を震わせた。

収まらない動悸に冷や汗をかく。

震える手で胸を押さえた。

「どうした、入らないのか?」

「…入ります」

私は呑気に笑う父をただ睨み付けた。
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